治具の固定方法とは?基本構造と種類をわかりやすく解説

製造現場において、加工精度や作業効率の向上には「治具(じぐ)」の役割が欠かせません。
なかでも「治具の固定方法」は、加工物(ワーク)をしっかりと保持し、正確な位置決めを行ううえで極めて重要な要素です。治具の固定が甘ければ、振動やズレによって寸法精度が確保できず、再加工や不良発生の原因となります。

固定方法には、クランプやバイス、ボルト固定、ピン位置決めなど多種多様な手法があり、ワークの形状や材質、加工内容に応じた選定が求められます。また近年では、段取り時間の短縮や作業効率の向上を目的に、「ワンタッチ固定治具」のニーズも高まっており、レバー式や空圧式など、簡易かつ確実な固定機構が開発・導入されています。

さらに、射出成形品や自動機部品に多く見られる「スライド構造」を含んだ部品では、可動部やアンダーカット形状に対応するために、可動制限や複雑な保持構造を備えた治具が必要になります。こうした構造に対応するためには、高精度な加工と柔軟な設計力が求められます。

本記事では、治具固定の基本構造や種類はもちろん、作業改善を実現する固定方法の工夫、高精度を実現する設計技術、そして当社が手がけた事例までを、図や実例を交えてわかりやすくご紹介します。

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治具とは?固定の役割と重要性

治具(じぐ)とは、工作機械による加工や組立作業などにおいて、加工対象物(ワーク)を正確な位置に固定し、安定した品質を確保するための補助工具のことを指します。治具は「位置決め」と「固定」を基本機能とし、加工の精度向上、作業の効率化、再現性の確保、安全性の向上といった多くの役割を担っています。

たとえば穴あけ加工やフライス加工では、ワークがずれたり、振動で位置が変わってしまうと、穴の位置精度や寸法公差を保つことができず、製品としての機能を満たせなくなる恐れがあります。治具を用いてワークをしっかりと固定し、かつ正しい角度や位置に誘導することで、安定して高精度な加工が可能になります。

治具には、製品形状や加工方法に応じてさまざまな種類があります。
一般的には、クランプやバイス、ボルト・ナット、位置決めピン、真空吸着式、磁力式などの固定方法が使用され、ワークの素材・重量・大きさなどに応じて適切に選定されます。また、繰り返し生産においては、治具自体に「ストッパー」や「位置決めブロック」などを組み込み、誰が使っても同じように正確な段取りができる再現性の高い構造が求められます。

さらに、治具の重要性は「加工工程」だけにとどまりません。
たとえば溶接や組立、測定工程などでも、正確な位置合わせと動かない保持は不可欠です。とりわけスライド構造を持つような複雑形状の部品では、固定時の押さえ力や逃げ構造、可動部の保持など、高度な設計と加工精度が要求されます。

近年では、段取り時間を短縮し、作業効率を向上させる「ワンタッチ固定」の技術も注目されています。レバー式クランプや油圧クランプ、スライドロック機構などにより、工具を使わず片手でワークを固定・解除できるようにすることで、熟練者でなくても迅速に作業が行えるようになります。作業の標準化や安全性の確保にもつながり、生産効率の向上が求められる現場では欠かせない技術となっています。

このように治具は、加工現場における高精度・高効率・高安全性を実現するためのキーパーツであり、単なる道具ではなく、製造品質を支える“設計思想”の結晶とも言えます。本記事では、こうした治具の固定方法に焦点を当て、その構造や種類、さらに応用事例まで詳しく解説していきます。

治具固定の種類と特徴

製造現場で使用される治具は、加工物(ワーク)を正確かつ確実に保持するために設計されており、その固定方法の選定は、製品の寸法精度や作業効率、安全性に大きく影響します。治具での固定方式は、部品の形状や材質、加工方法、さらには生産ロット数などによって最適な方式が異なります。本章では、主に使われる治具固定の代表的な種類と、それぞれの特長や適用場面について詳しく解説します。

ボルト・ナット固定

治具における最も基本的かつ確実な固定方法の一つが、ボルト・ナットによる締結です。この方法は、治具の初期設計や単品生産の現場で多く活用されており、締結力・保持力・耐久性に優れたオーソドックスな方式です。特に、外力や振動が大きい重切削加工や、熱による膨張変形が懸念される工程では、ボルト・ナットのしっかりとした締結が信頼性を支えます。

この固定方式では、ワークや部品をフランジ・プレート・押さえ金具などで挟み込み、六角ボルトやTボルト、蝶ナット、座金などを組み合わせて締結するのが一般的です。締結トルクの調整やナットの緩み防止対策を講じることで、安定した締結力を長時間維持できるのが大きな特長です。また、汎用性が高いため、既存の機械設備や装置に合わせた柔軟な設計も可能です。

一方で、ボルト・ナット固定には作業性に課題が残るのも事実です。締結と取り外しには工具が必要であり、段取り時間が長くなりがちです。とくに多品種少量生産や頻繁なワーク交換を伴う現場では、1カ所あたり数十秒〜数分のロスが積み重なり、生産効率に影響を与えるケースもあります。

こうした課題に対応するため、近年ではワンタッチ化された固定機構と組み合わせたハイブリッド設計も増えています。たとえば、初期固定にはボルトを使用しつつ、脱着頻度が高い部位にはレバークランプやスプリングピンを併用するといったアプローチです。また、スライド構造の部品に対しては、可動部を固定する一時的な押さえ具としてボルトを使うケースもあります。

また、ボルトの締付けによってワークに応力(ストレス)がかかることによる変形リスクにも注意が必要です。治具設計の段階で、締付け力がどの方向に加わるか、ワークが撓んだり逃げたりしないかを検証することが、精度維持には欠かせません。必要に応じて、スプリングワッシャーや緩衝材を用いた締結構造とすることで、応力分散を図る工夫も求められます。

さらに、ナットの緩みを防ぐために、ダブルナット・ロックナット・セルフロックナット・緩み止め塗料といった対策も併用されるケースがあります。とくに長時間の無人加工や高速回転が加わる工程では、ボルト緩みは大きなトラブル要因となり得るため、固定部の信頼性設計は治具設計全体の根幹とも言えます。

総じて、ボルト・ナット固定は「シンプルかつ確実」な固定方法であり、設計・製作・調整の自由度も高い反面、作業性や段取り性には注意が必要です。その特性を理解したうえで、用途に応じた設計・運用の工夫が、精度と効率の両立を実現する鍵となります。

クランプ・バイス

治具固定において作業効率と適度な固定力を両立できる手法として広く利用されているのが、クランプとバイスです。これらは、ボルト・ナットのような工具を必要とせず、レバーやハンドル操作によって迅速にワークを押さえることができるため、段取り作業の短縮や作業者の負担軽減に大きく貢献します。

クランプには非常に多くの種類がありますが、代表的なものとしては以下が挙げられます。

  • トグルクランプ:小型で軽操作、素早い固定が可能。レバーを倒すだけでワークをしっかり保持でき、繰り返し作業に最適です。
  • カムクランプ:カムの回転で締結力を得る省スペース型。ワークの高さに多少の違いがあっても、確実な締結が可能です。
  • エアクランプ:圧縮空気で高速開閉可能で、クリーンな環境に適合。軽~中荷重の組立・検査・軽切削向け。
  • 油圧クランプ:油圧を用いて自動的に締め付けを行う方式で、高い固定力と繰り返し精度が求められる装置・設備で重宝されます。特に位置決め精度の高い治具固定が必要な場合や、自動機での繰り返し使用において安定した保持力を確保できる点がメリットです。
  • マグネットクランプ:磁力を利用してワークを吸着。電磁式や永磁式があり、主に金属材料の簡易固定に使用されます。

バイスは主にネジ送りによって左右の顎(ジョー)でワークを挟み込む構造をもち、安定した固定力を持ちながら、比較的大きなワークにも対応できるのが特長です。標準的な横形バイスのほか、回転バイス、傾斜バイス、精密バイスなどのバリエーションも存在し、加工内容に応じた選定が行われます。

また、バイスの固定力を強化するために、ゴムライナーや真鍮ライナーを挿入して、ワークの傷防止や滑り止めといった工夫が施されることもあります。治具との組み合わせにより、バイス自体を装置ベースに固定し、クイック交換式にすることで作業の標準化を図ることも可能です。

クランプ・バイスの大きな利点は、段取り性の高さと汎用性です。特に多品種少量生産の現場では、1分でも早くワークを交換し、次工程へ移行することが求められます。こうした現場では、レバー1本で操作可能なクランプや、短時間で微調整できるバイスが大きな戦力になります。

一方で、クランプやバイスには固定力にばらつきが出やすいという弱点もあります。たとえばトグルクランプでは、レバーの押し込み角度やリンク機構の摩耗によって保持力が変化することがあり、繰り返し精度を求める場合には適切な点検と調整が欠かせません。

また、ワーク形状が不定形であったり、接触面積が小さい場合は、一点支持になってしまい加工中にワークが浮く・回るといった問題も生じます。そのため、クランプやバイスの使用時には、補助ピン、段差プレート、ガイドブロック、クサビ形状の押さえ具などと組み合わせ、複数点での安定支持を確保する必要があります。

さらに、ワンタッチ固定との相性が良いのもクランプの魅力です。レバー操作や油圧制御により、治具の脱着時間を数秒レベルにまで短縮できるよう設計することで、段取り時間の大幅短縮につながります。この点において、クランプは高精度治具の「操作性」を支える重要な構成要素とも言えるでしょう。

総じて、クランプ・バイスは高い操作性と一定以上の固定力を両立できる優れた固定方式であり、ワークや作業工程に合わせた適切な設計・配置により、現場の生産性を大きく向上させる可能性を秘めています。

プレート・ピン・吸着式

高精度な加工や繰り返し精度が求められる製造現場においては、「プレート」や「位置決めピン」、あるいは「吸着式」固定機構が広く活用されています。これらの方式は、ボルトやクランプとは異なり、再現性・正確な位置決め・非接触保持といった特性に優れており、特に治具設計における“精度志向”の現場では欠かせない要素です。

まずプレート固定についてですが、これは基準面として機能する治具のベースプレートにワークを直接載せ、側面や下面からピンやブロックで押さえて固定する方式です。加工対象物が比較的平坦であれば、固定点数を増やすことなく、高い安定性と水平精度を得ることができます。また、ベースプレート上に加工されたリブやストッパー、逃げ構造などにより、ワークの方向・姿勢を物理的に制限できるため、作業者による段取り誤差のリスクも大幅に軽減されます。

次に、位置決めピンは、治具設計において最も多用される再現性確保の手段です。円筒ピンやテーパーピン、段付きピンなどを使って、ワーク側の穴や逃げ溝と嵌合させることで、ミクロン単位での位置精度を安定して確保できます。特に、複数の加工工程を跨いで同一位置に再固定する必要がある場合や、スライド構造を持つ可動部品の“停止位置”を厳密に制御したい場合などに有効です。

これらのピン方式には、次のような特性があります:

  • 円筒ピン:軸方向の力には強いが、左右方向のガタつきが発生しやすい
  • テーパーピン:嵌め合い精度が高く、がたつきがない。繰り返し使用には不向き
  • 段付きピン:方向決めと固定を分ける設計に向く。高精度かつ繰り返し使用可能

さらに、薄板や軽量物、またはワークに押さえ力をかけたくない場合には、「吸着式」の固定が活躍します。これは、真空(バキューム)や磁力を利用してワークを保持する方式であり、物理的な押さえが不要なため、ワークに変形や傷を与えずに保持できるという大きな利点があります。

真空吸着式では、治具内部に負圧を発生させることでワークをプレート面に吸着させます。航空機部品や樹脂製品など、変形に弱い素材の固定に有効です。磁力吸着では、主に鉄・ステンレスなどの磁性体素材に対応し、薄板や複雑な曲面形状の部品も安定して保持できます。

これらの方式は、作業性の高さだけでなく、治具の構造をよりコンパクトかつ自由度高く設計できるというメリットもあります。例えば、真空チャックプレートは配管と連動させることで自動脱着が可能となり、ロボットラインや自動化設備との連携にも対応できます。

ただし、吸着式固定には注意点もあります。真空吸着はエア供給装置が必要であり、エネルギーコストがかかるほか、ワーク面が平滑でなければ吸着力が弱まることがあります。磁力吸着は、非磁性材やアルミ・樹脂などには使用できず、誤って吸着力が切れると重大な事故につながる可能性もあるため、安全設計やインターロック機構の併用が求められます。

プレート、ピン、吸着という三つの方式は、ワークの形状や材質、求められる精度や作業環境に応じて柔軟に使い分けられています。治具設計においては、これらの固定方式の特性を正しく理解し、必要に応じて組み合わせることで、加工精度と作業性を両立した最適な治具構成を実現することができます。

作業効率を高めるワンタッチ固定とは?

近年の製造現場では、多品種少量生産の拡大や納期短縮の要請により、「段取り作業」の効率化が大きなテーマとなっています。とくに治具における固定工程は、作業者の手間がかかりやすく、1回の締結に数分かかるケースも珍しくありません。こうした中で注目を集めているのが、「ワンタッチ固定」という設計思想です。

ワンタッチ固定とは、工具や複雑な操作を必要とせず、レバー・ボタン・スライドなどの簡単な動作でワークを瞬時に固定・解除できる仕組みを指します。従来のボルトやナットによる締結と比べて、段取り時間の短縮・作業の再現性向上・作業負荷の軽減といった大きなメリットがあり、現場改善や生産性向上の手段として導入が進んでいます。

本章では、まずワンタッチ固定の具体的なメリットと使用例を紹介したうえで、自動機や装置との連携を前提とした設計のポイントについても解説していきます。

ワンタッチのメリットと使用例

ワンタッチ固定は、製造現場において「早く・簡単に・確実に」ワークを固定することを目的に設計された機構です。従来のようにボルトやナットを工具で締める必要がなく、レバーやスライド操作などのシンプルな動作で誰でも安定した固定が行えるのが最大の特長です。これにより、作業時間の短縮だけでなく、作業者によるバラつきの防止や安全性の向上も期待できます。

たとえば、ボルト固定の場合、部品の位置合わせから締結までに数分を要することがありますが、ワンタッチ固定であれば数秒で完了します。特に、1日に何十回も段取り替えを行うような多品種少量生産や加工時間が短く段取り回数の多い大量生産の現場では、この数分の差が蓄積され、1日あたりの生産性に大きな影響を与えるのです。

ワンタッチ固定の利点は以下のように整理できます:

  • 段取り時間の大幅短縮:工具不要で固定可能なため、作業の立ち上がりが迅速に。
  • 作業者の技量に依存しにくい:誰が操作しても同じ結果が得られ、品質の安定化に寄与。
  • 作業中の安全性向上:手を挟むリスクや工具の締め過ぎ・緩みといったトラブルを防止。
  • 誤組み防止:決められた操作でしか固定できない構造にすれば、人為ミスも減少。

実際の使用例としては、以下のような場面で多く活用されています:

  • 組立ラインにおける位置決め治具
     →ワークを載せてレバーを倒すだけで固定完了。組立者の作業スピードが均一化され、生産タクトの安定に貢献。
  • 穴あけやフライス加工用の簡易治具
     →クランプレバーやトグルクランプで固定する構造にすることで、段取り替え時間を1/3以下に削減した事例もあります。
  • 検査治具や外観チェック用の固定台
     →ワークにダメージを与えないよう、スプリング付き押さえや吸着固定をワンタッチ構造と組み合わせて使用。
  • 溶接治具や仮組み用ガイド
     →部品をセットしてから数秒で仮固定が完了するため、作業者の手離れが良く、安全性と効率を同時に確保。

また、最近ではワンタッチ操作と「可動構造(スライド・回転・上下機構など)」を組み合わせ、自動停止位置でロックがかかるように設計された治具も増えています。これにより、例えばスライド構造部品を使用した設備においても、「止まったら自動で固定される」ような直感的かつ再現性の高い作業環境が実現できます。

このように、ワンタッチ固定は単なる「便利な機構」ではなく、現場改善・人材教育・品質安定・安全対策といった多くの面に波及効果をもたらす技術と言えるでしょう。特に熟練工不足や生産現場の自動化が進む中で、誰でも同じように正確な固定作業ができるという価値は今後ますます重要性を増すと考えられます。

自動機・装置向けのワンタッチ設計

生産現場の自動化が進む中で、治具にも「自動機との親和性」が強く求められるようになってきました。特に、段取り替えや部品の供給・固定が自動で行われる製造ラインにおいては、センサーやアクチュエーターと連動したワンタッチ固定機構の設計が不可欠です。単に“手動でワンタッチ”するのではなく、“自動でも安定してワークを固定できる構造”が必要とされているのです。

たとえば、油圧式クランプ(油圧クランプ)は、油圧シリンダーの動作によりワークを押さえる方式で、PLC制御によるタイミング制御やインターロック設計が可能です。これにより、装置の動作開始前に「クランプ完了信号」を出力させることで、加工時の落下やズレといった事故を未然に防ぐことができます。さらに、圧力スイッチやリミットスイッチ、近接センサーと組み合わせれば、クランプミスの検出や設備の自動停止なども実現できます。

また、スライド構造の部品に対応した治具設計では、スライドが所定の停止位置に到達すると同時にロックがかかる「カムロック機構」や、「クリック付きガイドピン」などの採用も効果的です。これにより、動作中に部品が振動で動いてしまうといったリスクも減少し、確実な位置決めと保持が自動的に行える仕組みが実現できます。

さらに、真空吸着電磁吸着といった非接触の固定方式も、自動機との連携に適した選択肢です。ワークを自動供給ラインから搬送してきた際、真空チャックによって瞬時に固定→加工→解除→排出といった一連の動作を、すべて自動で制御できます。軽量部品や薄物ワークなど、変形しやすい部品にも対応しやすいのが利点です。

このような自動化対応のワンタッチ設計を行う際は、以下のようなポイントが重要になります:

  • 治具自体がセンサーやエア供給と一体設計になっていること
  • 安全対策(エア圧低下時の非常停止、解除防止機構など)が組み込まれていること
  • 保守性・清掃性を考慮した構造になっていること
  • 固定・解除の動作が機械側と正確に同期すること

また、最近では治具の標準化やモジュール化も進んでおり、ユニット交換によって異なる製品対応が可能になるワンタッチ治具も増えています。たとえば「製品A用」と「製品B用」の固定ユニットを、スライドレールやドロップイン式のピンで交換できるように設計すれば、設備全体を変更することなく複数製品に対応することが可能となります。

当社のように、装置と治具の両方の構造を理解しながら設計できる体制が整っていれば、こうした自動化設備へのワンタッチ固定機構の組み込みにも柔軟に対応できます。これは、現場の省力化や人手不足への対応のみならず、製品の安定供給や品質トラブルの未然防止にも大きく寄与する設計思想といえるでしょう。

スライド構造部品に対応した治具設計のポイント

製品設計において、可動部や抜き勾配を持つスライド構造の部品は、成形や加工の工程で保持が難しく、固定ミスや変形のリスクが高くなります。特に射出成形におけるスライドコアや、機械組立における可動機構付き部品などは、精密な位置決めと変形防止の両立が求められます。こうしたスライド構造部品に対応するためには、通常のクランプ治具とは異なる設計配慮が必要です。本章では、スライド構造部品の特性に即した治具設計の基本的な考え方や、実用的な設計の工夫について解説します。

可動部品を正確に固定するための治具設計例

可動機構を有する部品、特にスライド構造を持つ成形品の加工・検査工程では、「正しい位置で可動部を保持する治具設計」が非常に重要です。可動部は動作の自由度を持つ一方で、外力や重力の影響でわずかにずれることがあり、固定せずに加工や測定を行うと精度不良や組立不良の原因となります。

まず最も基本的な治具構造は、「可動部が意図した位置に完全に停止していること」を前提にした位置決めブロック方式です。可動部の戻り方向が一定であれば、治具内部にストッパーを設けて、機械的に動作限界位置でロックする仕組みにします。これにより、再現性のある位置で繰り返し固定できるため、測定値のばらつきも抑制できます。

一方で、可動部が部品単体では停止しにくい場合や、位置がばらつく場合には、「スプリングテンション式の位置補正機構」を備えた治具が有効です。これは、治具に内蔵した押さえバネや調整ピンにより、可動部をガイド方向に引き込むことで、常に同じ基準位置に戻す構造です。可動部戻りの再現性を高めながら、過度な力が加わらないよう緩衝構造を組み込むのがポイントです。

さらに一段上の工夫として、「可動動作中の保持」まで視野に入れた治具も存在します。たとえば、可動部を途中位置で保持する必要がある組立工程では、「ロックピン+爪機構(クランプアーム)」などを用い、一定のストローク中に可動部を物理的に止めることが可能になります。この際、保持点が可動部の駆動面に傷をつけないよう、ゴム材や樹脂製の保護部品を併用します。

また、作業者の負担軽減と段取り効率の両立を図るために、「ワンタッチ固定機構」との組み合わせも有効です。レバーやエアシリンダーで可動部の押さえとロックが自動化されていれば、作業時間を大幅に短縮でき、生産ラインにも適用しやすくなります。量産現場ではこのような可動部対応型の専用治具が製品ごとに用意され、日常的に使用されています。

可動構造部品の固定治具設計では、加工・測定のしやすさだけでなく、「可動部特有の動作の癖」「組立や反復動作における耐久性」「作業者の操作性」といった、実際の運用条件まで見据えた設計が求められます。特に段付き可動や多軸可動部では、固定する位置や角度の誤差が製品品質に直結するため、固定点の選定とクランプ方式の選択が非常に重要です。

こうした可動部に特化した治具は、経験豊富な設計者のノウハウと、現場との密なコミュニケーションから生まれます。可動構造部品の加工・検査においては、「ただ押さえる」だけでなく、「正しく押さえる」ための設計思想が、結果的に高精度と安定した加工を実現します。

当社の治具固定に関する技術と対応力

当社では、75年以上にわたる治工具専門メーカーとしての経験を活かし、多様な形状・材質・用途に対応する治具の固定技術を追求してきました。特に、加工精度を左右するクランプ設計にはこだわりがあり、作業者の使いやすさと高精度の両立を図るワンタッチ機構の導入にも積極的に取り組んでいます。また、ジグボーラーによるサブミクロンオーダーの精密穴加工により、位置決めの信頼性を確保し、治具の性能を最大限に引き出す対応が可能です。本章では、こうした当社独自の技術と設計対応力について紹介します。

高精度クランプ設計とワンタッチ化の工夫

治具におけるクランプ設計は、単にワーク(加工対象物)を固定するだけでなく、加工精度・作業効率・安全性にまで大きく影響を与える重要な要素です。当社では、クランプが「後付け可能な部品」ではなく、「治具本体の一部」として一体設計されるべきであると考えています。たとえば、ワークにかかる応力の向きや大きさ、押さえ方向による加工面の変形リスクなどを十分に検討し、最適な固定方法を設計段階から織り込むことで、安定した品質確保を実現しています。

このような思想のもと、当社では治具クランプにワンタッチ機構を積極的に導入しています。ワンタッチ固定とは、ボルト締結や工具を必要とせず、手動レバーやカム、スプリング等を活用して、ワークの着脱を迅速かつ確実に行える構造を指します。この構造により、段取り替え時間の短縮や作業ミスの低減といったメリットが得られ、特に多品種少量生産や段取りの多い生産品や検査工程において大きな効果を発揮します。

当社では、イマオコーポレーション製のクランプユニットや、オリジナル設計によるワンタッチ治具機構の活用により、現場の使いやすさと加工精度の両立を実現しています。特に、繰り返し使用される検査治具や組立治具においては、作業者が無理なく正確な位置にワークを固定できることが重要であり、過剰な力がかからず、かつ確実に押さえられる構造の工夫が求められます。

さらに、可動部や複雑形状部品の固定には、フローティング機構やスライド押さえなども併用し、干渉を避けながらワークを保持する設計を取り入れています。これにより、押さえ込みによるワーク変形や加工時のズレを防ぎ、より高い位置決め精度を維持することが可能になります。

治具は現場での使いやすさが何よりも優先される道具です。その裏には緻密な設計思想と加工技術の蓄積が不可欠です。当社では、CAD/CAMによる3D設計と社内試作評価を通じて、ワーク形状や工程条件に最適化された治具の提供を行っています。必要に応じて、現場ヒアリングを含めたVA・VE提案を実施し、単なる部品提供にとどまらない「使える治具」の設計・製作を支援しています。

ジグボーラーによる精密位置決め穴の加工

治具の性能を左右する重要な要素の一つが、「位置決め穴」の加工精度です。クランプがしっかりとワークを固定しても、その基準となる位置決めが狂っていれば、加工精度や検査結果に誤差が生じてしまいます。特に、H7公差(±0.010mm程度)や真円度0.05mm以下といった高精度が求められる場合には、一般的なマシニングセンタやボール盤では限界があります。

当社では、この「精密位置決め穴の加工」において、**ジグボーラー(ジグ中ぐり盤)**という特殊な工作機械を活用しています。ジグボーラーは、光学スケールや精密リードスクリュー、ダイヤル式の手動操作によって、±1μm(0.001mm)レベルの精密位置決めが可能であり、サブミクロンオーダーの穴加工を実現するために最適な機械です。

たとえば、検査治具や組立治具において、複数の位置決めピン穴を正確なピッチで加工する必要がある場面や、真円度・同軸度を極限まで追求した位置合わせが求められるケースでは、ジグボーラーの高精度な加工能力が威力を発揮します。当社では、三井精機工業製のジグボーラーを合計5台保有しており、それぞれの機械に熟練技術者を配置することで、1点ものや小ロット品でも安定した品質を維持しています。

また、ジグボーラーの特長は単に精度だけではありません。手動操作による柔軟な対応力により、CADデータだけでは把握できない微小な調整や形状への追従が可能です。これにより、現場で発生する「少しだけ調整が必要な加工」「個体差を考慮した微調整付きの加工」といったイレギュラーにも柔軟に対応できます。

加えて、当社では三次元測定機(CNC)を併用し、加工後の穴位置や真円度の測定を高精度に実施しています。測定データは検査成績書として提出することも可能であり、自動車業界・医療機器・航空部品など、高度なトレーサビリティが求められる業界への納入実績も豊富です。

精密加工では「測れないものは作れない」とも言われますが、当社では「測れる精度で、狙った精度の穴をあける」ことをジグボーラーで実現しています。これは、熟練技術者の技能と、機械・測定機器・品質管理体制が三位一体となってはじめて可能となるものです。

当社の治具固定の製作事例

当社では、製品形状や使用環境に応じて、最適な固定方式を取り入れた治具を多数設計・製作してきました。単純な位置決め治具から、スライド構造やワンタッチ固定を組み込んだ複雑な専用治具まで対応可能であり、自動車・建機・医療・半導体業界など、幅広い分野のお客様からご依頼をいただいております。
本章では、そうした実際の事例から、特に固定方法に工夫を凝らした製作事例をいくつかご紹介します。高精度・高効率を両立させた治具設計の実例を通じて、当社の技術力をご覧ください。

建機業界向け油圧クランプ治具

材質S50C
サイズ500×500×700[mm]
開発期間・納期の目安設計から組立まで3カ月
公差レベル±0.02

本製品は建設機械メーカー向けに製造した油圧クランプ治具です。

本製品は、建機メーカー様で部品加工に利用され、穴ピッチ・平坦度/平行度に高い精度が求められ、±0.02以内の公差レベルにて製造しております。形状として、空洞部分も大きいため、工程設計および加工時の歪み等が起きないよう細心の注意を行って加工した製品となります。

産機メーカー向け パレット

材質SCM435
サイズ70×630×630[mm]
開発期間・納期の目安受注より2ヶ月
公差レベル穴径公差±0.01、穴ピッチ公差±0.005

本製品は、産機メーカ向けの工作機械内部に設置されるパレットです。精密部品加工に利用される治具となるため、ジグボーラーによる正確な位置決めによる穴加工を弊社で行いました。

工作機械内にて精密部品の加工に利用されるため、部品加工と比較して一段上の公差レベルが求められます。本製品も穴径公差が±0.01mm、穴ピッチ公差が±0.005mmと非常に高精度な穴あけ加工を要求されたため、ジグボーラーにより穴加工を行うことで、高精度な加工を実現しました。

まとめ|高精度・高効率を実現する治具固定の考え方

治具固定は、単なるワークの保持を超えて、加工精度や作業効率、製品品質に大きく関わる重要な要素です。本記事では、基本的な固定方式から、スライド構造部品への対応、ワンタッチ固定のメリット、そして当社の設計技術や事例に至るまで、多面的にその重要性と工夫のポイントをご紹介しました。

精密加工においては、「しっかりと固定する」だけでなく、「正しく押さえる」ことが極めて重要です。わずかなズレや応力の偏りが加工誤差につながるため、治具設計には高度な観察力と経験が求められます。また、段取り時間の短縮や再現性の向上を目的としたワンタッチ固定の導入は、今後ますます重要性を増すと考えられます。

当社では、ジグボーラーによるサブミクロン単位の高精度位置決めや、熟練技術者によるクランプ設計・製作を通じて、多様な業界に最適な治具をご提供しています。試作や1点ものの対応はもちろん、装置組込用の専用治具設計まで幅広く対応可能です。

当社では、長年の実績と高い加工技術を活かし、治具の製作から検査・納品までを一貫して対応しております。1点ものの高精度品にも柔軟に対応しており、お客様の仕様や課題に応じた治具製作のご相談も多数承っております。
治具製作や外注をご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。